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階段の降り口が左手先、すぐそこというとき、右側の線路の上に何かが浮かんでいるのが目の端をかすめた。
反射的に顔をむけてそちらを見る。
「えっ」
飛んでいる。
蝶々だ。
赤い。
真っ赤な蝶々だ。
「どうして?」
地下鉄半蔵門線の線路の上方に、真っ赤な蝶々が羽をぱたぱたさせて舞っている。
不思議だ。
地下鉄の駅の構内になぜ蝶々が飛んでいるのだろう。
ありえないことじゃないけど、どうやってここまで来たのだろうと、茶美は、二つの小さなうちわみたいな羽を振っている蝶々を見て思った。
「赤い……」
自然と口から言葉がもれる。
それほど、茶美の目線の高さほどの宙に浮かぶ蝶々は、真っ赤だった。
あまりの濃度に、赤黒く見える。
血のようだ。
打ち振っている羽から、ねっとりとした赤い滴がしたたり落ちてくるんじゃないかと思えてくる。
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