二人で怪談

217/222
前へ
/529ページ
次へ
 それでも、もし寝ていたとしたら、逃げ遅れることがあっても不思議ではない。 「どうしてあの晩に限って、おれたち寮生全員がもつ鍋屋に集まったのだろうか。それはもちろん、偶然でしかないんだよ。でも……」  この話の語っていた立花は、言い淀んだ。 「偶然だけど、六人全員が、偶然だとは思ってない。危険を察知した結果だった、誰もがそう思ってるんだ」  灰と黒焦げの残骸になった寮は取り壊され、新しいワンルームアパートがその跡地に建った。  六人に関しては、以前と同額の月々三万円で部屋を借りることができた。しかし二か月と経たないうちに、四年生の先輩は卒業して寮をでていった。もうすぐ桜が咲く頃だった。  立花は三年生になった今も、その真新しいアパートに住んでいる。
/529ページ

最初のコメントを投稿しよう!

280人が本棚に入れています
本棚に追加