二人で怪談

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 レジに向かってお母さんにひっついて立っていた先ほどの女の子が、唐突に、くるりと背後に体の向きを変えた。すっとしゃがみ込む。  手を伸ばして、啓太の百円玉を拾った。 「ありがとう」  足早に近寄っていって、笑みを浮かべた啓太が声をかけた。  女の子は無言で啓太のことを見上げている。百円玉を握った手は、体の横に無造作に垂らしたままだ。 「あ、お金、拾ってくれてありがとう」  もう一度、啓太がお礼を言った。  それでも女の子は、上目使いで啓太の顔を見上げているだけで、何も言わずにじっとしている。  この子は百円玉を拾っていないのだろうか、と啓太は思った。  下を向いて、床に百円玉が落ちていないか確認する。ない。  間違いなく、この子の手のなかにあるはずだ。まさか、もらってしまうつもりなのか?
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