茶美の足あと

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「河村さん、おはよう。あのさあ、この前、テレビでてたでしょ。あたし見たよ。びっくりしちゃった。テレビにでちゃって、やっぱりほんとの芸能人なんだね、すごいよね」 「ありがとう」  声をかけてきた女子にちらっと目をやって、お礼を言う。 「で、でさあ、北山健といっしょに番組でてたでしょ。あの人さあ、やっぱり実物もかっこいいの?」 「……う、うん」  このやりとりを見ている、憎悪の視線を、キリで突き刺されるような痛みとして茶美は感じている。  クラスでも一部の女子、それと最近特に多いのは後輩である一年生の女の子たちが、握手してください、サインしてください、写真撮らせてください、と無邪気によってくる。そして、男子。 「ほら、見てみん。あのアホづらの男子」 「ああ、あのサルどもね」 「河村のことチラチラ見て、なんか話してんじゃん」 「気色悪っ。女日照りのサルが盛(さか)ってんじゃねえよ」 「アイドルなんて名ばかりの、あんなブス見てなにが楽しいのかね」 「ああいったゴミそのものの男たちが、河村みたいな短足鼻デカ女のファンになるんだよ。アイドルなんてそんなもん」  由香里がナイフの刃のような鋭い口調で言って、あざ笑う。  仮にもアイドルをやっているのだから、茶美だって、注目されて、ほめられたり、喜ばれるのは、もちろんうれしい。  だが、その茶美にむけられる称賛は、茶美を嫌う人間の嫉妬の炎に油をそそぐことになる。
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