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せっかく今日は学校にいけたのに、早退しなくちゃいけなかった……、そう考えて茶美は重い息を吐いた。
午前中の授業が終わると、茶美はカバンと着がえの入ったバックをつかみ、まわりに気づかれないようにこっそりと教室を抜けでた。
三時から、青山のスタジオでのライブリハーサルがあるからだ。
六時間目の最後の授業が終わってからでは、当然間に合わない。けれども、他のメンバーでも、みんながみんな時間通りにリハにやって来るわけではない。事前に連絡がされていれば、遅刻して参加することも可能なのだ。
リハーサルの場合、事務所の方針として、中高生の子はできるだけ学校の授業にでてから参加するように指導しているし、学校に通っていないメンバーでも、うみねこリンクとしてではなく個人としての仕事がある際は、そちらを優先するようにしている。
だから、リハの開始時間に必ずしも全員が集まっているわけではなく、むしろそれが普通だった。
今日の茶美に関していえば、六時から別の仕事が入っているので、リハを途中で抜けるというスケジュールになっている。限られた時間しかリハができない。だから、時間に遅れることなく開始から入って、時間内にできるだけ歌と振り付けを他のメンバーと合わせておく必要があった。それで、しかたなしに学校を早退してきたのだ。
校門をでて歩きながら、自分がいなくなってることに気づいたクラスメートたちにまたなにかいわれるんだろうな、と茶美は憂鬱な気持ちになって、足取りも重くむかっていた。
事務所に入って、アイドルグループを結成した当初、歌って踊ってトークして、これからみんなに喜んでもらえるんだ、と茶美は希望に胸が躍っていた。
でも、それは家族とファンと一部の好意的な人たちだけであって、それと同じくらい、いや、それ以上の人たちに、茶美は調子に乗ってると疎(うと)まれ、男にこびてると蔑(さげす)まれて、または理由なんかなくて存在自体がとにかく嫌いだ、などといわれるようにもなっていた。
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