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「御老人、重々承知とは思いますが――<異なる>世界からの訪問者にして、この我らが住む世界の略奪者、【魔王】の存在をご存知でしょうか?」
視線を重ね、睨む訳でもないその青年の視線には、確かな力が籠っていた。
「……嗚呼、知っておるとも」
老エルフの答えに、ロジカは一つ頷き返す。
「四方の険しき魔境に君臨せし魔王達――
<魔>獣束ねし北の王
<魔>導極めし東の王
<魔>器操りし西の王
<魔>界統べし南の王
その四人の現魔王――奴等を倒す、魔王殺しの武器を鍛える為に私はこの森へと参りました」
ロジカは一層瞳に力を籠め、老エルフを見遣る。
「全ては奴等に苦しめられし無辜(むこ)の民を救済せんが為に――」
そこで言葉を切り、ロジカは視線を切り、俯く。
「そして――私の、両親の仇を……討って貰う為に」
「――ムゥ…………」
哀切なる言葉の響き。
思わず胸を殴られたかのような感情の揺れは、老エルフの表情に現れた。
そしてロジカの背後からは、二つの息を呑む音が聴こえる。
カカオとモカは悲しげな、そして先程までの自分達の浮わついた気持ちを恥じるかのように、きつく唇を噛み締め下を向く。
部屋には粘度を持った空気が、ゆっくりと渦巻いていた。
数呼吸分の間を置いて、ロジカは再び口を開いた。
「この剣は我が師であり育ての親、鍛冶師イーヴァルディが鍛え上げたものです……そしてこの剣を越える、最高の一振りを、私は打ちたい……」
そしてロジカは顔を上げ、微かに眼の端に輝くそれを拭うことすらせず、ただただ老エルフを真摯なる――曇り無き眼(まなこ)で見詰める。
「エルフの長、深き叡知を備えし森の賢者様――どうか、どうかこの地に眠る、【樹霊鋼(じゅれいはがね)】を私めに御譲り下さい! お願い致します――! お願い致します!――お願い――」
ロジカは深く、深く頭を下げ、魂を震わす声を響かせ――幾度と老エルフに願い、乞い続けた。
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