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<Ⅳ>
数刻後。
エルフの里の中に在る一件の空き家の中。
そこでロジカは床に直接座り込み、背嚢を下ろし明日の準備をしていた。
外は既に日が暮れ、ドップリと深い闇が周囲を覆い隠している。
あの後――暫しのあいだ口をつぐみ、迷うような素振りを見せていた老エルフは、最後には青年の熱意と誠意に折れる形となった。
そしてそんな青年は今、荷物を整理しながら――クツクツとほくそ笑んでいた。
ニタニタと、愉しくてしょうがないと言わんばかりの悪どい笑みを。
「ったく、ちょろいもんだぜ――」
そう小さく呟き、愉悦に歪ませた表情で背嚢から小瓶を取り出す。
「それにしてもあの糞ジジイ、もっと早く折れやがれってんだ――このロジカ様が頭まで下げて、わざわざおべっかまで使ってやったんだからよぉ」
そこには先程見せた誠意等は微塵もありはしない。
ただ性根が腐り切った一人の悪党がそこには居た。
そして緑色の液体の入った小瓶をチャプチャプと振り、したり顔でもう一度ほくそ笑む。
「ヘヘ……まあでも、コイツを使わなくて済んだだけ良しとしてやるか」
そう言ってロジカは、「感謝しろよ、ジジイ――」と呟きながら慎重な手付きで、即効性の<痺れ薬>を戻した。
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