109人が本棚に入れています
本棚に追加
青年が森に入って既に一刻半――三時間ほど経過していたが、目的とする物は未だその影すら掴めていなかった。
最悪野宿も可能なように毛布も持ってきてはいたが、青年としては極力その事態は避けたいところだ。
野犬や獣、そしてこの世界に蔓延(はびこ)る異世界からの侵略者――<魔王>達の影響により魔獣が跋扈(ばっこ)せし環境で、野宿など到底出来たものでは無い。
仮に一夜明けたとしても、ろくな休息の取れぬ身で深き森の探索を続けるのは正直な話、自殺行為に近い。
獣や低位な魔獣程度であれば問題は無いであろうが、中位の魔獣相手ではギリギリ、上位ともなれば絶望的な戦力差。
そしてこの森には、人間と敵対する種族までもが存在した。
ガサリ。
不意に、近くの茂みから草葉の擦れる音が聴こえる。
微かな音であったが、青年の耳はそれを聞き逃す事は無かった。
かじりかけの干し肉を吐き捨て、即座に立ち上がり腰へと手を伸ばす。
腰に吊るした二本の剣。
その内の一本の柄を握ると即座に抜刀し、音のした方向を厳しい表情で睨み付けた。
そして今一度、周囲一帯へと意識を飛ばし状況を確認する。
「……囲まれては、いないか」
そう、小さく呟く。
最初のコメントを投稿しよう!