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剣帯に吊るされ、鞘に収まった一振りのロングソード。
鞘は確りと箔が押され、細工師の手によって装飾の施されたとおぼしき豪奢な設え。
刀身を見ることは出来ないが、鞘や柄だけでも相当な業物である事が窺えた。
妹エルフは数秒ほどその剣に視線を固定した後、意思の籠った視線を再度青年へと向けた。
そして先程の恐怖を吹き飛ばす好奇心や興奮を携え、口を開く。
「お兄さんは、<勇者>なの――!?」
先程から怯えっぱなしであった姉エルフも、その言葉に反応して期待を滲ませた瞳を青年へと向けてきた。
「あ゛? あーー……………あぁ」
妹エルフの藪から棒な問いに硬直していた思考を働かせた青年は、独り納得したように頷いた。
その頷きを勘違いした妹エルフは、一層熱の籠った眼差しで青年を見詰める。
「あ…………いやいや、違う違う! 俺は勇者なんかじゃないから!」
流石に不味いと思ったのか、慌てて否定をする。
このまま勘違いされ、実は――などと、後々になって誤解を解いた際、非常に気まずい思いをするのは御免であった。
「ぇーー…………」
「………違うの?」
それでも、姉妹エルフの非常に残念そうなリアクションは、青年の心にしっかりとダメージを与えていたが。
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