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ふいに、病室のドアがノックされ、ナースの格好をした女性が入ってくる。
「優介くん、本買って来たよー」
その声に、先ほどまで寝息を立てていた少年は、意識を取り戻した。
「ふぁぁ……あ、倉木さんおはよう」
ナースの格好をした女性は、少年に倉木さんと呼ばれているようだ。
「おはよう。お母さん来たでしょ?せっかく一度起きたのに、また寝てたの?」
「僕は寝るのがお仕事みたいなものだからね」
「うっ……否定出来ないな……」
そして二人は笑い合う。
「優介くん、今日のぶんの本だよ」
一区切りつくと、倉木さんは少年に一冊の本を手渡す。
「倉木さん、最近、学校恋愛物が多くない?」
「うん。優介くんは学校行けないからね、気分だけでも学生の甘い恋愛を味わって貰おうかと思って」
正直、ありがた迷惑だった。こんなの読んだら、余計に学校に行きたくなってしまうだけだから。
でも、その事を倉木さんに言うつもりはない。これは倉木さんが善意でやってくれているからだ。
「……ありがと。今日読んでみるよ」
少年はお礼を言うと、倉木さんは満足気に頷いて、ニッコリ笑った。
「どう致しまして」
その後、五分ぐらい少年と倉木さんはお喋りを楽しみ、倉木さんは仕事に戻って行った。
倉木さんは、一日一冊、少年に本を買って来るナースさんだ。本人は初め、「お金はお母さんに貰ってるから気にしないで」って言っていたけど、お母さんにそのことを言ったら、全然心当たりが無かったらしい。
お母さんは、倉木さんに本の代金を渡そうと躍起になっていたが、「入院してる患者さんみんなに読んで戴く為の本だから病院持ちです」って言われて断られたそうな。
実際、病院の受付の横に数え切れない量の本が置いてある事で渋々納得したお母さんだが、お母さんも僕も、病院持ちどころか倉木さん一人が全額出してる事は薄々気付いていた。
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