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(一)
教室の自分の机にある弁当のふたを開けて、杉田哲夫は顔色を変えた。
焼肉弁当ではない。これは豚の生姜焼きじゃないか。
四時間目の授業が始まる前、哲夫は「俺、焼肉弁当」と、ボソッと言った覚えがある。それが違うものに聞こえたのかもしれないが、そこをちゃんと聞いて行動するのがこいつの仕事なのではないか。
今までそう教えていたはずなのだが……。
「――チャビ、ちょっと来い」
哲夫が小さな声で言った。
役目を終えた中野光一は、買って来た昼食が間違いなかったかと、六人分の弁当やサンドイッチなどのチェックをしていた。一つでも間違えたら大変なことだ。
「おい、チャビ!」
今度は哲夫が大声で怒鳴ると、目の前にある机を蹴飛ばした。
「はい! な……」
光一はすぐに駆け寄る。もう次の仕事だろうか。
「あれは何だ」
机と共に吹っ飛んでいった弁当を指差して、哲夫が訊いた。
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