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ハイロの記憶が一気にさかのぼっていく。
小さい頃、必死で捕まえた魚、小さい魚を父親に見せると、彼は自分の魚よりも大きく、数も多く捕まえており、捕まえたなんて言えず、小さくひどく小さいその魚を父親気づかぬうちに逃がしたこと、
ようやく、死ぬ思いをして何日か掛けてようやく、ようやく登れた岩壁を登り切ったとき目の前に現れた本当の岩壁、それを目の当たりにしたときのことなどを、思い出した。
アリーシアの言葉を聞いた瞬間に。
もちろん会場はざわついた。
このことを知らない教師の一部も。
けど、アリーシアはニヤリと笑い、黒白しましまのタイツを履いた膝をパチンと叩いて壇上を飛び降りた。
「以上!金の無いやつぁ~俺んとこへ~来い~ってかー」
てくてく出口へ向かう。
もちろんアリーシアは納得の行かない奴らに囲まれ、説明を求められる。
金太郎は動かなかった。
時計を持っていたあの少女も。
クロウは笑っていた。
シロウも笑う、当然だ、と。
ハイロは無表情に少し悲しみを混ぜたような顔、
彼はこう思った、
自分が必死にがんばろうとしている試験すら受けずとも合格してしまうあの2人と、自分の差を。
幼少期の父と子の様な、圧倒的な差の何かを。
「それは俺が説明しよう。」
あの白衣が壇上でマイクを握った。
また静まる会場、
みな白衣の盾尾(たてお)先生の言葉を待っている。
「クロウ・コクリュウ、シロウ・トワ・ホワイトソール両名の無条件合格は俺の…」
盾尾は壇上から遅れて来た遊馬を見つけて、
「…俺と遊馬先生の勝手な意見だ。」
遠くで遊馬が
(共犯にすんな盾尾コルァ!!)
と叫んだ。
「それにはいくつか理由があるが、最大の理由は、力の差だ。」
ここでようやくアリーシアの胸ぐらから誰かの手が離れた。
「クロウは特待入試、シロウは一般入試をそれぞれ受験したが、どちらの入試にも実戦に近い組手を受験生同士で行う科目がある。それを現段階の差を認めつつ受験生に行わせるわけには行かないと、俺が…」
盾尾はまた遊馬を細い目で見つめてから、
「…俺と遊馬先生が、いやむしろ遊馬先生がもうノリノリのゴリゴリで学園長に命令を…」
また遠くで
(盾尾!一回テメ、ちょ、降りて来い、歯全部折ってやるから、な?)
と聞こえた。
「俺からは以上だ。詳しい理由は入試が終わったあと、候補生になれた者にのみ教えてやる。」
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