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ジュンside
「……」
とある部屋の前の廊下の壁に腕を組んで凭れながら、今にも駆け付けたくなる気持ちを抑え込んで、俺はその時が来るのをただジッと待っていた。
そんな俺の前をトゥーナの父親でウェーバー家元当主であるゲイルさんがあっちへこっちへと忙しなく動き回っている。
そんなゲイルさんの行動を此処に集まっている使用人のみんなが苦笑いやら呆れ顔で見ていた。
その顔は「もう少し落ち着いたらどうだ」と暗に語っていた。
「ゲイル様。少し落ち着いて下さい」
使用人の人達の視線に全く気づかないでうろうろしていたゲイルさんに俺が声を掛けようとした時にそれより早く執事服を着たお爺さんが声を掛けた。
執事というよりは爺やという印象をかなり受ける人だが、彼はこの家の執事長をしているトーマスさんだ。
フルネームはトーマス=リッキー。
「トーマス、そうは言うが心配でジッとしていられないんだ」
「一番心配しているであろうジュン様が落ち着いて居られるのにゲイル様がそんなにオロオロしていてどうするのですか」
「娘の出産を心配しない親は居ないと思うのだが」
「何事にも限度という物があります」
「……ジュン君、君はその場所から微動だにしないが心配ではないのか?」
分が悪いと思ったのかゲイルさんは話題を俺に無理矢理振ってきた。
「そんなの心配に決まってるじゃないですか……。
ただ、一歩でも動いたらすぐにトゥーナの所に飛んでいってしまいそうだから動かないようにしてるんですよ」
ため息混じりにそう答える。
それを聞いたゲイルさんはそれもそうだなと大笑いしていたが、また直ぐにオロオロし始めたので俺も苦笑を浮かべるしかなかった。
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