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まぁいいか。
どうせ、喧嘩売ってくるような根性のある奴は居ないだろうし。
「はいはい」
適当に返事をしながら体を少し傾けて耳を貸す。
すると、桜はチラチラと優希の事を気にしながら、かなりボリュームを絞って話し始めた。
「零斗。ホントに優希とは薔薇の関係じゃ無いんだよね?」
「いい加減に信じろよ、お前。何回も言ってんじゃねぇか。
そんな気色わりぃ関係じゃねぇって」
俺も桜の声に合わせて小さめの声で話す。
「だって、優希、零斗を見つけると凄く喜ぶんだもん」
「だーかーら、アイツは凄まじい程の鈍感で自分はモテないと思ってるから、恋愛より友情って奴を大事にしたいお年頃なんだって前にも言っただろうが」
「それはそうだけど……」
「大体、お前はラブコメで言えば、幼なじみなんてかなりギャンブル性の高い位置にいるんだからアイツが勘違いしそうな行動は控えた方がいいぞ?」
「勘違いしそうな行動?」
「例えば、今みたいに俺と内緒話するとか。
俺に恋愛相談するとか」
「えっ?それだけで!?」
「するって。
付き合って下さいって言われて、どこに?って返す奴だぞ?
俺、リアルで初めて見たわ」
「み、見てたの!?」
「アレは傑作だった」
「零斗が「もうコクれ」って言うから頑張って告白したのに……。
そっかぁ……零斗にとっては私の一大決心も娯楽だったんだね……」
トホホ……と暗くなる桜。
しまった。流石に傑作は言い過ぎだったな。
せめて、喜劇だったというべきだった。
一緒か。
「そりゃ、わるーござんした。
ほれ、分かったら優希の元に戻って、ライバルが現れる前にポイント上げとけ。
俺が先に行って、お前等のこと二人きりにしてやっから」
「うん……ありがと」
暗くなった顔が少しだけ元気を取り戻し、儚げな笑みを浮かべて、桜は俺に礼を言った。
「あっ、やば……。
今日、まっちゃんに呼び出し食らってたんだった。
わりぃ!優希、桜。俺、先行くわ!お前等はゆっくり二人で来いよ!」
わざとらしく少し大きめな声で嘘を言って、俺はその場から走り去る。
ちなみにまっちゃんって言うのは俺のクラスの担任のアダ名だ。
俺とあの二人はクラスは別だからこの嘘がバレる事は無いだろう。
後ろで優希の声が聞こえたが無視する。
折角、手にいれた逃げ出すチャンスなんだ。
物にしない手はないだろう?
俺って結構嫌な奴かもな。
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