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「なんかね、野球推薦の話がきてるらしいんだけど、元々彼は他の高校を志望してたみたいで……決めかねてるみたい」
「宇佐美ちゃんこそよく知ってるね。あいつ自分の事、あんまり話さないのに。もしかしてコッソリ佑哉と付き合ってるとか?」
さつきのからかい半分の言い方に、彼女はパッと顔を上げた。
「ち、ちがうよ! 私は……その……、佑哉君と仲良しの人が好きで……。その人がこの前、ちらっとこぼしたのを聞いちゃったの……」
「えー? ホントかなぁ。じゃあその佑哉と仲いい奴って誰ー?」
宇佐美ちゃんの意中の人にはたいして興味はないが、佑哉が自分の悩みを打ち明けた奴ってのが気になる。
さつきのストレートな質問に、宇佐美ちゃんは耳まで真っ赤になった。
「やだぁ、さつきちゃん。誘導尋問うまい……。えと……キャプテンの……竹本君……」
(たけもと? ……はて。馴染みがあるような、ないような……。でもキャプテンと言えば……)
「えー、竹本ってセカンドの? この前の試合で早々にデッドボールくらって引っ込んだ奴じゃん! 足速いだけで能書きばっか垂れる、お調子者でしょ?」
「そ、そんなんじゃないもん! 竹本君、佑哉君と同じくらい野球上手だし、頭いいし楽しいしっ。佑哉君の事もすごく心配してて……」
そこまで一気にまくし立てると、宇佐美ちゃんはハッと口をつぐんでさらにリンゴみたいに赤くなった。
……これはかなり可愛い。
やはり女の子はこうでなくちゃいけないような気もする。
宇佐美ちゃんのリンゴ顔に触発されたのか、なんだかこっちまで照れる。
「わかったわよ、ごめんごめん。まあ、アバタもエクボって言うしね」
さつきはよしよしと彼女の頭を撫でてやった。
「またそんな……。絶対、誰にも言わないでよね。なんか、さつきちゃんって話しやすくって、ついしゃべっちゃう……」
「えへへ、それ褒めてるの? 言いませんよ、誰にも。約束する」
さつきが笑うと、宇佐美ちゃんも安心したように笑った。
「それにしても、悩みって進路の事だったのか……。東南高校って言ったらこの辺じゃ有名だし、ぜひって言われて無受験で入れるのに。佑哉の実力を充分に発揮できる所だと思うけど、あいつ、いったいどこを志望して……」
その時だった。
さつきのこめかみに、ピシッと割れるような痛みが走った。
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