63人が本棚に入れています
本棚に追加
●○●○●○●○●○●○●○●○
夜のグラウンドを照らす公園のライトは、そんなに明るいものじゃない。
だけど、ちょっと身体を動かすには充分な明るさだ。
佑哉はその下のベンチでメールを打っているようだった。
めずらしい、とさつきは思った。
メールはおろか、電話すら面倒臭がってあまりしないのに。
なんだか声がかけずらくて、しばらく黙って金網越しにその横顔を見ていた。
やがて佑哉は、携帯をベンチに置いて、ため息をついた。
なんだか切ない。
こんな佑哉は見たくない……。
さつきがギュッと金網を握り締めると、わずかにギシッと軋んで、その音に佑哉は顔を上げた。
「……なんだ。本当に来たのか」
相変わらずの無表情……でもない。
少しだけ笑ったように見えた。
さつきはスタスタと、金網で出来た入り口をくぐる。
「……来ちゃいけない?」
「別に。どっちでも」
これは佑哉にしてはかなりの歓迎の台詞と言える。
長年の付き合いだ、それくらいは分かる。
それは分かるのに──。
(いったい何を迷っているの)
その言葉が喉まで出かかる。
さつきは急にもどかしくなって、遠くを見ている佑哉の目の前に立った。
目の前をふと、さつきのスカートに遮られて佑哉は顔を上げる。
二人の視線が絡まり、薄暗いグラウンドが小さな世界に変わった。
「……今日、暑かったね」
口から出たのはそんな言葉。
でも佑哉はそれを聞くと、どこかに馳せていた心をさつきに戻したようだった。
「そうか? 今日は少し曇ってたし、まだ涼しかったと思うぞ。この程度の暑さでへばってたら、俺達なんか夏の大会どうすんだよ。吐きそうなくらい暑いんだぞ。グランドに陽炎も立つし、汗は目に入るし……」
野球の話になると、夢中で早口になる。
いつのまにかその顔から翳りは消え、目は輝いていた。
本当に佑哉は野球が好きなのだ。
「さつきって、普段太陽に当たってないんじゃないか? だからこの程度の日差しで……」
しゃべりすぎたと思ったのだろうか。
佑哉がハッと口をつぐみ、一緒に少年のようだった笑顔も消えた。
「わりい……。余計なお世話だよな……」
そしてまた、心はどこかに行ってしまう。
それを繋ぎとめたくて、さつきは慌てて明るい声を出した。
最初のコメントを投稿しよう!