63人が本棚に入れています
本棚に追加
佑哉がまた下からボールを放る。
こんなんじゃキャッチボールの意味がない。
「だってこれじゃ、遊びみたいじゃん」
ポンとまたさつきのグローブにボールが乗っかる。
「遊びだろ?」
バカにしたような笑いに、なんだか無性に腹が立つ。
さつきは、ふんっとお腹に力を入れて、思い切り返球してやった。
それを佑哉は、虫を横から捕まえるようにパシッとグローブで掴み、そのままポーンと上に放り投げた。
白いボールは佑哉の右手に、まるで導かれるように収まった。
「……女にしちゃ、上手いと思うよ」
渾身の返球を弄ばれて、そのボールさばきに見とれてしまった自分が悔しい。
「もういい! じゃあTバッティングしよう。後ろのネットに打ち込みなよ。あたしがトス上げるから」
さつきはグローブを外し、小走りにベンチに戻りかけた。
「バカ言うな、Tなんてできるか! 万が一、打球が当たったら怪我じゃすまないぞ!」
きっぱりとした言い方に、思わず足が止まる。
怒ったような顔の佑哉は、その意思を変える事はなさそうだ。
への字に口を曲げたまま、さつきは肩を落とした。
「……女の子ってつまんない……」
ガッカリを絵に描いたようなさつきの様子に、佑哉の難しい顔がほころんだ。
「じゃあ、スイング見てくれよ。さつきの目はけっこう適切だ。その方が練習になる」
フォローのつもりなのか、そんな風にさつきを少し持ち上げるような言い方をすると、佑哉はグローブを置いてバットを掲げた。
(……なんか佑哉、優しい……。こんな風に、あたしに気を使ってくれた事なんて今まであったっけ……)
「ついでにコースの指示も頼む。あ……えーとコースってのは……ま、それはいいや」
「わかった、振り分けるよ。はい、ピッチャーから目を切らないで!」
慌てて佑哉はバットを握りなおし、前方を見つめた。
「じゃあまず、インコース低め!」
ブン、と佑哉が低めにバットを回す。
「なんか動き固ーい。相変わらずインコース弱いね。インなんて思い切り引っ張ってファールにしちゃえばいいんだよ。じゃあ次、アウトの高め!」
今度はザッと踏み込んで高めを振る。
ヒュッといい音が鳴った。
最初のコメントを投稿しよう!