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「あー! さつきちゃん! この前、急にいなくなっちゃうから私、すごく心配……」
「ごめん! なんか忙しそうだったから……」
この前と同じグラウンドの隅にさつきを見つけ、宇佐美ちゃんが駆け寄ってきた。
彼女は今にも泣き出しそうな顔で、さつきをじっと見つめてくる。
「あんなに具合悪そうだったのに……。本当に大丈夫だったの?」
「ちょっとした貧血みたいなもんよ。暑さにやられたって言ったら、この程度で? って佑哉にバカにされたわ」
さつきが笑うと、宇佐美ちゃんも少し安心したようだった。
本当にいい子だ。
たいして親しくもない自分を、こんな風に心配してくれるなんて。
心配してくれる人がいる、それだけで人は幸せなのだとつくづく思う。
「あの……さ、さつきちゃん。もし私なんかで良かったら……おしゃべりしたり、その……色々しようよ。無理にとは言わないよ。少しずつでいいから……」
(はい? 何それ)
心配と言うより、告白っぽい雰囲気を醸し出している宇佐美ちゃんに、ちょっと戸惑う。
「う、うん……もちろんだよ。なんか改まって言われると変な感じだけど。あたし、宇佐美ちゃん好きだし、これからもたくさんおしゃべりしよう」
「良かった! じゃあ、また練習も見に来てくれるよね」
さつきがうなずくと、彼女はホッとしたように微笑んだ。
「そうだ、金曜日の放課後にね、東南の中等部が練習試合に来るんだって!」
「え? そうなの!」
さっそくきたか。
いずれチームメイトになる佑哉を、品定めに来るという事だ。
でもよりによって、こんな不調の時に大丈夫だろうか。
「きっと佑哉君の実力を確かめにくるのよね。その日も見に来るでしょ?」
「え……うん。もちろん……」
なんだか少し、不安。
でもいい機会ではある。
甲子園出場の常連校、東南高校野球部の予備軍でもある中等部のチームは、当然実力もあるチームだ。
レベルの高いプレーを目の当たりにすれば、佑哉の向上心も高まって迷いもなくなるかもしれない。
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