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さつきが来ている。
こんな自分を見せたくはなかったのに。
遠くても、あいつが心配そうにこちらを見ているのがわかる。
佑哉が目を伏せて守備位置につくと、キャッチャーから「いくぞ!」と声が掛かった。
メンバーがそれに応える声は、不安と困惑が入り混じっている。
(こんなんじゃダメだ……。
いや、これは俺の責任だ。俺がみんなの足を引っ張っている。試合中なのに、どうしてもあの事が頭から離れない。しっかりしろ俺!)
佑哉は雑念を振り払うように頭を振った。
「タイムお願いします!」
突然、キャッチャーがタイムを申し出た。
ピッチャーの元に駆け寄り、内野陣にも手招きをする。
マウンドに選手が集まると、それぞれが気遣うように、佑哉をちらと盗み見た。
「ごめん、みんな……。俺、誰かと代わった方が……」
「……殺される」
キャッチャーの山城が呟いた。
佑哉が、え? と顔を上げると、他のメンバーも、うんうんと頷く。
「やべぇよ……。竹本が休んでる間に、佑哉にこんなプレーさせたまま、なんのフォローもできずに負けたなんてバレたら……」
「そうだ。あいつキャプテンの権限でランニング100周とか言い出しかねない」
「そうっすよ。俺なんか完全に瞬殺です。キャプテンの代わりにセカンドにいるのに佑哉先輩のカバー、全然できなくて……。すみません、先輩!」
思わぬ仲間の言葉に、佑哉は声を失った。
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