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いつもの夜の公園。
いつものグラウンド。
いつものように、さつきがいつのまにか後ろに立っている──。
それはなんとなく感じたが、俺は振り返らない。
そのまま素振りを続け、自分の中で言葉が溢れそうになるのを待った。
「……言い訳だけどさ」
──そして、それは溢れた。
「今日も、この前の試合も……。俺、マジで集中できてなかったと思う」
俺は一つ大きく深呼吸した。
心配や不安が消えたわけではないが、心はどこか凪いでいる。
おぼろげに見え始めた自分の道。
それをさつきに、1番に伝えたい。
振り返ると、やっぱりさつきはそこに居た。
いつも通りの白いブラウスと、制服のプリーツスカート。
あるときは明るく、あるときは心配そうに、そして今はやけに静かな目でそこに立っている。
俺がベンチに戻ると、さつきも黙ったままこちらにやって来て隣に座った。
「ちょっと、しんどい事があって……。今日はそれが頭から離れなかった。その前の試合は、進路の事と……昔のことを思い出しちゃってさ」
「昔の……事?」
今日初めて、さつきがしゃべった。
その声に、なぜかほっとする。
そして、どうしようもなく胸が詰まる。
それをごまかすように足元のボールを拾い上げ、縫い目を指でなぞった。
「まだ小学4年の時の話。夏の死ぬほど暑い日だった。その頃、俺たちが入ってた野球チームにOBの高校生が何人か遊びに来たんだ。……監督に挨拶して、その後プレーを少し見せてくれた。それがすげえかっこよくてさ……」
俺の心は、あっという間にあの時の情景に引き込まれていく。
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