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あの時は本当にびっくりした。
テレビの中で見るような、リズムと躍動感のあるプレーが目の前にある。
中でも心躍ったのは、セカンドとショートのスイッチプレーを見た時だった。
「すごいんだよ、監督が打ったノックをセカンドが逆サイで捕って、そのままセカンドに入ったショートにグラブトス。間髪入れずにショートがファーストをさす。あのスピードと完成された動きは、よっぽどセカンドとショートの息が合ってないと出来ないプレーだよな!」
自分の声が段々大きく、早口になっていくのがわかる。
でもその時の興奮を、真っ直ぐにさつきに伝えたい。
「その時の先輩がさ、『俺たちはしがない都立武山高の野球部だけど、私立の強豪をぶっとばして絶対甲子園に行くから見てろよ』って。そう言ってみんなメチャメチャ笑うんだよ。俺達、頑張れって何度もその高校生達に言って……」
その笑顔がクラクラするくらい眩しくて。
息が止まるほど憧れて。
実際に甲子園に行けたのか、そんな事は知らない。
ただ、彼らの姿が自分達の中で、野球を続ける上での理想になった事は確実だった。
「その後、ショートの俺と、セカンドの竹本と約束したんだ。絶対あの先輩達の高校に一緒に入って、私立を倒して甲子園に行こうなって。ああいうプレーができるようになるまで、メチャメチャ練習しようなって。……なのにあいつ、俺に当たり前みたいに東南高に行けって言いやがった……」
たまりかねて夜空を見上げる俺を、さつきはただ見つめていた。
夏の暑い一日。
無邪気な俺とみんなの笑い声。
いつもなら、なぜか話の途中でさつきの様子が変わり、姿を消してしまう。
だが、今日はそんな気配はない。
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