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「あいつは忘れてるんだろうな、ガキの頃の約束なんか。でも、俺の目標はあの時から何一つ変わっちゃいない」
バカみたいだと自分でも思う。
絶好の環境を約束されたも同然なのに。
「俺の横にはあいつがいて……いつかあの時のプレーを、武山高のグラウンドでしてみたい。あいつも同じ気持ちだって信じてたのに。俺とのコンビプレーなんて誰とでもスイッチできちまうもんなのかよって……なんか腹立って、あの試合の前日ケンカしたんだ。もしかしたら、あいつも喧嘩の事、気にしてたのかもしれない。……デッドボールなんてくらいやがって」
顔が勝手に後悔で歪む。
「都立武山って俺にとっちゃレベル高くてさ。あいつは楽勝だろうけど俺は危なくて。それでけっこう受験勉強も頑張ってたんだ。でも……奴の一言で全部抜け落ちたって言うか、自分がどうしたいのかも……」
思いつくままを口にしていた俺は、隣に目を移して青くなった。
「ちょっと待て! なんだよさつき、なんで泣いてんだよ!」
さつきがこっちを見つめたまま、ポロポロと涙を流している。
肩が触れそうなくらい近くで、ピンク色の頬と唇が何かを言いたそうに震える。
考えてみれば、こんな間近で女の子が自分を見てる事なんて今までなかったし、当然泣かれた事なんてない!
慌てて自分の汚れたタオルを、さつきの顔に押し付けた。
「あああ、ごめん、これは汚ねー……! おい、やめてくれよ。ホントにどうしたんだよ!」
こっちが泣きたい。
さつきはその汚れたタオルを離さずに、顔を埋めてしまった。
「……忘れてなんかいない……」
「何?」
タオルの中から聞こえたくぐもった声に、俺は眉をひそめた。
「あたしわかる……その人の気持ち。きっと忘れたわけじゃない。でも佑哉の為には、その方がいいと思ったんだよ。だって佑哉、上手いもん。チームの誰よりも上手だもん。自分なんかと弱い高校で一緒にやるよりも……強い高校に行ったほうがいいと……その人も思ったんだよ」
真剣な目から、また涙が溢れる。
「………」
その涙に、俺の中で言いようのない罪悪感が湧き起こった。
本当は自分にもわかってる。
カッコつけて、意地を張って、迷いからくる苛立ちを、あいつのせいにしているだけだって事。
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