第1打席☆チカクテトオイ☆

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『打てよー打てよー打て打てよー! かっ飛ばせー! ゆ・う・や! 四中た・お・せー!』 帽子のツバを軽く押えながら主審に頭を下げ、バットを掲げる。 見慣れたその雄姿に、今日はやけに胸が締め付けられてしまう。 「やぁん、超かっこいー。やっぱ佑哉君いいよねー。打てなくても許すー」 その、緊張感ぶち壊しのKYな発言は、さつきからは少し離れた椅子を占拠する女の子達のもの。 「でも最近、マジで打てないじゃん。ボテボテばっかでさ。見所はあのバット振るまでのポーズだけだなー」 毎回のように試合を見に来る、同じクラスの女子だ。 (この子達、超ムカつく!) 言われなくても最近なかなかいい当たりが出ないことは、佑哉本人が一番よくわかっている。 口には出さないが、なにか悩んでいる様子で、それがバッティングにも影響しているようなのだ。 (それなのに! ビジュアルオンリーのあんた達に何が分かんのよっ!) さつきはその子達の声を掻き消すように、大きな声援を送った。 「打てー、佑哉ー! いけるよー!」 こんな声、聞こえっこないのはさつきにもわかってる。 ただでさえこの観客席は、最後の逆転劇への期待で湧いているのだ。 それでも声を出さずにはいられない。 こんな風に、つい周りが見えなくなっても許されるのは、女の子の特権だ。 佑哉は一球目を見逃した。 高めだが完全なストライクゾーンの直球だった。 (ああもう、何よ絶好球じゃない……! いつもなら初球から攻めてくのに。自信持ちなよ佑哉……) この場面で力むなと言う方が無理な話かもしれない。 だけど、本来の佑哉はそういう時こそ強いタイプ。 小学校の時からずっと見ているさつきにはわかる。 やっぱり今の不調が、佑哉にプレッシャーを与えているのだろう。 プレッシャーは魔物だ。 これに囚われると判断力を失うどころか、いつものスイングもできない。
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