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思ったとおり、佑哉は自宅の近くの区営グラウンドにいた。
ここは普段、小学生のチームが利用する公園内のグラウンドだが、佑哉はいつも家に帰った後に軽く素振りをしに来るのだ。
公園の灯りが夜のグラウンドをぼんやりと照らす中、佑哉は一心にバットを振っていた。
昨日の公式戦のバッティングが悔やまれるのだろう。
がむしゃらに、腕も折れよとばかりに、ウエイトを着けたバットを振り回している。
その気持ちはさつきにもよくわかる。
悔しくて、情けなくて、──焦る。
自分達はもう三年生だ。
今のメンバーでプレーできるのもこの夏が最後。
特に佑哉は、この辺りでも有名な高校の野球部から誘いを受けている。
なんとか納得できる形で、今の仲間達との中学野球に区切りをつけたいのだろう。
「そんなめちゃくちゃなスイングで、いくら振ったって意味ないよ。……バカみたい」
気持ちは痛いほどわかるのに、そんな言い方しかできない。
「うるせーよ、さつき! だいたいお前はいつもそう……」
振り返った佑哉は、グラウンドを囲む暗い金網の影から出てきたさつきを見て、言葉を切った。
「あ……、いや悪い……あの……」
「いいよ、別に。慣れてるし。それよりやるならちゃんと振りなよ。見てあげるから」
さつきはスタスタと濃紺の制服のプリーツを揺らしながらグラウンドに足を踏み入れ、近くのベンチに座った。
佑哉はちょっと驚いたようにその様子を目で追っていたが、やがて困ったように口ごもる。
「お前……、制服のまんまじゃん。家に帰ってないのか? 家の人が心配……」
「しないよ。何言ってんの今更。佑哉と一緒だと思ってるよ。ほら早く!」
佑哉はまだ何か言いたそうに口を開きかけたが、途中で諦めたようだ。
小さく肩をすくめ、素直にバットを構えた。
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