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「……見て何かわかるのかよ」
そう言って佑哉は一つスイングした。
ヒュッと小気味いい音をたてて空気が切られる。
「わかるよ。今のみたいに無駄な力の抜けたいいスイングか、昨日みたいにあれこれ考え過ぎの打てっこないスイングかぐらいは」
膝の上で頬杖をついて、さつきが笑う。
「昨日の試合、見てたのか」
つられたように少し笑って、佑哉はもう一度バットを振った。
「あ、今のはちょっと腰の開きが早い。……もちろん見てたよ。何考えてたの、あの最後の打席。スランプにしても何かおかしかった」
それには答えず、佑哉は続けて何度かスイングする。
今さつきに言われた事をきちんと意識してか、最後は完璧に近いいつもの佑哉のバッティングフォームだった。
「それだよ! 自分でもわかるでしょ?」
思わず声をあげてしまう。
本当に佑哉は、野球センスがある。
こんなただの中学の部活なんかじゃなく、どこかのリーグチームにでも行けばよかったのにといつも思う。
「本当だよな……。悔し紛れにいくら振ったって打てるわけ無いよな。わかってんだよ色々と……周りが言うことも。でもなんか素直に聞けないって言うか。きっと甘えてんだろうな…」
夜空を見上げて、独り言のように佑哉は自分の心の内を覗かせた。
何か心に引っかかるものがあるなら、それをまず取り除いてあげたい。
それが佑哉らしいプレーを見られる近道だと思うから。
空には夏の大三角形がくっきりと浮かび上がっている。
最後の夏だけれど、焦っちゃダメだ。
さつきは座っていたベンチからピョンと立ち上がった。
「よし。いつものフォームを取り戻したところで、昨日の試合の事は忘れよう! まだリーグ戦は始まったばかりだし。佑哉なら次は絶対大丈夫だよ」
後ろに手を組んで笑うさつきに、佑哉は戸惑ったように目を向けた。
「あたし、よくわかんないけど……。大好きな野球に影響出るなんてよっぽどなんだね。こうなったら、悩むだけとことん悩んじゃえば?」
「……お前……」
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