世界には勇者がいた

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「…5年、か。経ってみれば長かったようで短かったような気がするな…。」 ストッ、と音をたてて、ナイフが見事に的の中心を射抜いた。 久々の非番に青年は、何をするでもなく王国騎士団宿舎の中庭で暇をもて余していた。 普段は馬車馬のごとく働かされているのだが、今日に限っては周りが空気を読んだのか…珍しくすることがない。 青年は木に身体を預けると、そのまま無意味にズルズルと座りこんだ。 あの日と違って、空はとても青かった。 「なぁ…リヒト。お前の望んでいた世界って本当にこれで合ってんのか?」 いくら世界が平和になっても、争いや犯罪が全く起こらないというわけではない。 むしろ魔王という脅威が居無くなった今、各国が再び自国の利権を主張して小競り合いを繰り返しているのが現状だ。 小さなナイフを片手で弄びながら、青年は目を閉じた。 やることが無いとどうも性に合わず感傷に浸ってしまう。 「まぁ、約束の5年が経ったんだ。お前に直接問い詰めることにするよ。」 そう呟いて目を閉じたままもう一投すると、ナイフは吸い込まれるように再び的の中心を射抜いた。 大丈夫。俺は強くなった。 青年は自分に言い聞かせるように心で唱え、重い腰を持ち上げた。 そして、ここから物語は再開するーー。
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