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私が着いたときには、もう彼がいた。私よりも早く来れたことが嬉しいようで、とてもいい笑顔をしている。
「おはよう。今日は君より早く来れた。君の連勝もストップだね」
ああ、なぜ、この人を消さなければならないのだろう。こんなにも私を愛してくれて、突然呼び出しても嫌な顔ひとつせず、笑顔でいてくれる優しい人を。
「それで、今日は急にどうしたんだ?───っ!?…………フッ」
私は歩み寄ってくる彼に銃口を向けた。彼は一瞬驚いた顔をしたけど、すぐに微笑んだ。
なぜ、あなたはそんな優しい顔をするの?私の今していることは、あなたの思いを裏切っているに。
「初めからわかっていたよ。君があの組織の人間だって。でも、君の瞳は寂しそうだったから。悪の道から助けたいと思ったんだ。結局、無理だったけどね」
彼の言葉に、私は涙が出てきた。初めからわかっていてなお、私を愛してくれた。助けようとしてくれた。彼の優しさが、痛かった。
近づいてくる彼に構えた銃を握る手が小さく震える。今の私の顔は、きっと涙でひどいことになっているだろう。
彼は私の目の前に来ると、あの日のように、私の涙をぬぐって、続けた。私は、震える指を引き金にもっていく。
「でも、君の恋人になって、俺は幸せだったよ」
少しずつ指に力をいれる。いくらあなたがぬぐってくれても、私の涙は次々と溢れ出すばかり。
「俺を撃つのが君でよかった」
彼は最後に、私にキスをした。そっと触れるだけの、優しいキスを。そして彼は少しだけ離れた。私が撃ちやすいようにするために。
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