神の使いと堕ちた光

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小さな町の中で、一番大きな教会。その中の閉ざされた小さな聖堂に少女がいた。その髪と肌は色素が無いかのように白く、汚れ一つ無いこれまた真っ白な法衣を纏っている。ただ、その目は固く閉ざされており、誰も少女の瞳を見た人はいない。 「神の御遣いよ、何用でしょうか?」 「大司教。今から数日後より干ばつが起きます」 その少女は未来が見える。そのうえ、この国では白は何よりも神聖であるため、少女は神の御遣いと呼ばれ、崇められている。 「なんと、それは大変ですね。すぐに対応いたします」 「はい、お願いします。私の力が必要であれば、いつでも言ってください」 聖堂を出た大司教はたいして焦った様子ではない。が、それも当然だ。少女が未来を見たときに対応をすれば、万事うまくいく。 少女は手伝うとは言ったが、実際、少女がすることは何もない。いや、何もさせてもらえないし、できない。 「これでよいのでしょうか」 少女はいつも疑問に思う。この聖堂に入れられてから、少女は外に出たことはない。少女に出来るのは未来を告げるだけ。それ以外のことは、何一つできない。 だが、少女はそれを苦には思わない。なぜなら、それが少女には普通だから。少女が思うのは、もっと別。 「私の人生は、本当にこれでよいのでしょうか」 このまま外界に触れることなく、ただ、未来を告げ続けて生を終える。それはあまりにも、寂しすぎる。 外界を知らなければ、そう思わなかっただろう。だが、少女は夢で外界を知っているし、視ることだけはできる。 知っていて、視えるからこそ、求めてしまう。 「考えても無駄ですね」 だが、少女は知っている。自分は一生ここを出られないことを。故に、外界のことなど、求めるだけ無駄なのだ。 幻想を求めれば求めるほど、現実は辛くなるのだから。
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