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「ありがとうございます。ですが、なぜ私にそこまでするのですか?」
少女は目を開けることなく、男に問いかけた。心を見るのではなく、男の言葉で教えてほしいのだ。
「き、今日はもう帰る。また明日来るからな。待ってろよ」
男はまるで逃げるように翼を広げ、窓から飛び立っていった。
「変わった堕天使でしたね。それより、また明日、ですか。フフッ」
男が出ていった天窓を見ながら、少女はもう何年もしていなかった笑みをこぼした。
翌日、約束通り堕天使は来た。手には幾つかの本と花束をもって、昨日と同じ場所から少女に近づいた。
「よぉ、ちゃんと来たぜ。まず、魔法陣の解析やるから、その本でも読んでな。あと、こっちの花はプレゼントだ。今まで匂いは嗅いだことねぇだろ」
堕天使はそう言って翼を広げ、天井近くから魔法陣の全体と手元の本を見比べている。
少女はその様子を見ながら、しきりに花の匂いを嗅いでいる。その匂いは今までに嗅いだ何よりも甘く、少女は自然と小さく笑みを浮かべていた。
ドス………バサァ
ふと、少女の耳に何かが落ちてきた音が聞こえた。何が落ちたのかと振り返ると、堕天使が持っていたはずの本が落ちて広がっており、落とした本人である堕天使は小刻みに体が震えている。
何か、よくないことでもあったのだろうか。
「どうしたのですか、堕天使さん」
とにかく、何があったのか知ろうと問いかけた少女の声に気づいた堕天使は、顔をわずかにうつむかせながら、音もなく少女の前に降り立ち、先ほどとは打って変わった消え入りそうに小さな声で、少女に告げた。
「お前を連れ出すことはできない」
と、少女にとって絶望でしかない言葉を。
「この魔法陣は、お前を守るためじゃない、お前を外に出さないためだ。お前は、ここから出れば…………死ぬ」
そう言った堕天使の言葉に、少女は耳を疑った。死ぬということを、少女は全く予想していなかったのだ。
なぜなら、少女はここで神の御使いとして崇められている。その少女を死なせるだけの理由が、少女には全く分からないのだ。
「おそらく、お前がほかの場所へ行けば、ここへの信仰はその場所に持って行かれるからだろうな。全く、馬鹿げてやがる」
少女は堕天使の言葉に、静かに涙を流した。必要とされていたのは彼女ではなく、彼女の持つ力による信仰だけ。
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