神の使いと堕ちた光

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少女は信仰のためだけに、ここから出ることも許されず、人形のように生かされていたのだ。 その事実が、少女の胸に深く突き刺さった。 「なら、私はいったいどうすれば………」 外へ出ることはできない。今まで信じていた教会の人間は、もう少女の味方にはなり得ない。少女の心全てが、絶望に塗りつぶされていく。 「俺が、ずっとここにいてやるよ。外には出られない。これは覆らない事実だ。だが、お前は一人じゃない。一人より二人の方が寂しくないだろ。だから、お前が死ぬその時まで、俺はずっとお前のそばにいる」 まるでプロポーズのような堕天使の言葉に、少女は軽く赤面してしまった。昨日会った相手なのに、少女にはそれがとても嬉しく感じた。いつの間にか流していた涙もやみ、少女の顔には笑顔が戻っていた。 それから、少女と堕天使の生活が始まった。誰か人が来た時は、堕天使は少女の陰に潜み、少女は今まで通りに過ごす。そして人がいなくなったら、二人は再び談笑を始める。 たまに堕天使は外へ行っては、花や果物を持って帰ってくる。少女はそれを嬉しそうに受け取ると、十分に堪能したあと、堕天使に返す。それを堕天使は外へ持って行く。 そんな生活が続き、やがて二人はお互いに惹かれていった。もう恋人同士と言ってもいいほどに、二人は愛し合っている。 しかし、そんな二人生活は、終わりを迎えることとなってしまった。 少女のいる聖堂の前を通りかかった修道女が、少女が誰かと話している声を聞いてしまった。初めは大司教かと思った修道女も、その会話の内容を不審に思い、ついに、聖堂の扉をわずかに開けてしまった。 「あれは………御使い様と、堕天使!?」 修道女はあわててきびすを返し、大司教の部屋へと向かった。 「大司教様、大変です!御使い様の聖堂に、堕天使が!」 「なに、それは真か?」 いきなり入ってきた修道女に、大司教はわずかに顔をしかめたが、その修道女の言葉に、勢いよく椅子から立ち上がると、詰め寄った。 「は、はい。この目で確かに見ました!」 修道女は大司教の勢いに一瞬おびえたが、すぐに元に戻ると、力強く言い切った。 「至急人を集め、御使いの部屋に向かわせろ」 修道女はうなずき、部屋を出て行った。 一人残った大司教は、棚から聖水や十字架を取り出すと、少女の部屋へと向かっていった。
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