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母は優しく私たちを抱いてくれていた。
そよぐ風も心地よく、日の光も暖かかった。
私は一人ではない。
母は私と兄弟たちを大切にとても大切に育ててくれた。
私はとても幸せだった。
風の強い日も、照り返す日の強い日も、雨の日も、
名も知らない鳥たちが鳴く日も、
厭な虫が舞う日も母が守ってくれたから。
優しかった母も年老い腰が曲がる日がきて、
まだ年若い私たち兄弟が巣立つ日も近づいてきたある日、
その事件が起こった。
それは正に大量虐殺だった。
私たちを守ろうとした母も、
母と同じように子供たちを守ろうとした仲間たちも
根こそぎ切り殺されてしまった。
もう腰の曲がってしまった母が私たちに謝る。
「ごめんね。
あなた達を最後まで守ってあげられなくて。本当にごめんね」
私たちも涙ながらに母に言う。
「お母さん、今までありがとう。私たちは幸せだったよ」
「あなた達はまだこれから大きく育っていく小さな子供なのに本当に ー 」
母はその言葉の途中で鋭い刃物で切り倒されてしまった。
「お母さん!」
私や兄弟の悲痛な叫びももう母には届かない。
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