十二章(暗殺)

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 “キン”、“ギィン”と剣と剣が合わさる音が続く。 「ほう……」  ジェネラスとハワードの口から感心したような声が漏れた。  アーサーはサーシャが女とは思えない鋭い剣捌きを見せることを既に知っている。 「ちっ!」  サーシャの攻撃に押されていたミゲルが焦れたようにサーシャの剣を強引に上に弾いた。  今度はサーシャが打ち込むより先にミゲルの攻撃がサーシャを襲う。  サーシャが受けにまわった。  あくまで柔らかく、柳の葉が風を受け流すようにしなやかにミゲルのパワーを殺していく。  見事な受けであった。 「ふ~む……素晴らしい」  ジェネラスが賞賛の溜息をついた。   ミゲルの剣に次第に熱がこもっていく。  特殊部隊隊長ともあろう者が君主の前で女ごときに遅れを取るワケにはいかない。  必死に攻めるミゲル。  徐々にサーシャが押され始めた。  さすがに本気になった特殊部隊隊長は手強い。  サーシャの顔に大粒の汗が浮いていた。  ミゲルの上段からの力任せの打ち込みを受けた時、サーシャが一瞬よろめいた。  勝機を掴んだミゲルが、このチャンスを逃すものかと渾身の一撃を振り下ろす。  “ギィン”  と、音がして、ミゲルの剣が弾かれた。  ミゲルの渾身の一撃を弾いたのはアーサーの剣であった。 「ミゲル殿、怪我をさせてはならぬと言うジェネラス公の言葉を忘れられたか?」 「あっ……」  ミゲルの顔が赤くなる。 「私としたことが……申し訳ござらん」  いつの間にか本気になっていた自分をミゲルは恥じた。  そしてそのミゲルを本気にさせたのは、つい先刻“話にならぬ”と馬鹿にした女の剣であった。
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