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まどろむ意識の中にぽつぽつと声が届く。
「おい、聞いておるのか!?」
目を開けると、眼前まで迫った少女の顔がとび込んできた。
「うるさい…。だいたい聞いてたよ」
僕が顔をそらしながら答えると、その少女――――もとい学園長・ノマは呆れたというように小さく溜息を吐いた。
「“だいたい”では困るのじゃ。例の新入生は一般人とは少し違うのだぞ?」
ずいと顔を近づけながら言い迫ってくる学園長に、僕が目を伏せて黙っていると、少し離れた所から様子を見ていた青年が間に入ってきた。
「まぁまぁ、ノマ。そうガミガミ言うなや。クロかて、今回の割り当てに不満なんやろ?」
「………」
「フッ…。解ってないのぉ、二人とも。この割り当てはおぬしにとって有益なものなのじゃ」
「たとえ僕に有益だとしても、相手にとっては無益以外の何ものでもないよ」
僕がそう言うと、ノマはあからさまに眉を寄せた。
「おぬしは、またそんなことを言っておるのか」
「だって、本当のことでしょ」
ああ、本当に……、入学早々、僕と関わらなきゃならないなんて――――――‥
▲▽
空は雲もほとんど無く、まさに五月晴れといった感じの快晴だ。気持ちよく降り注ぐ陽の光に、サツキは目を細めた。
「ここが…」
白い壁と赤茶色のレンガの屋根に囲まれた大きな建物に、サツキは胸を躍らせた。胸に手を当てると、いつもより心臓が高鳴っているのが分かる。
――大丈夫、大丈夫。
そう自分に言い聞かせて、心を落ち着かせる。
――今日から、ここで頑張るって決めたんだから…!
少し普通とは違った人達が通う学校――――ストーロジ学園。
――私も家庭の事情で、十五歳の誕生日を迎えてここに入ることになったんだけど…。
季節は五月中旬。入学するにはあまりにも中途半端な時期だが、この学園ではそんな事例もそうそう珍しくはなかった。それは、この学園に通う生徒達の能力の特徴とそれに合わせた学園のシステムにあった。
この学園は“普通ではない”。そのことについては、まず、この国の現状について説明しなければならない。
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