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立ち止まって休息することにより、荒れた呼吸は幾分落ち着く。
『俺』達は今、隠れながら巨人の行動を注視している。何かあったらまた逃げるために。
先程は距離が遠すぎたために巨人を影と表現したが、本当に奴は"影そのもの"であった。ただ、人のカタチをしていて、ひたすら大きいのみである。
その真っ黒な塊からは表情も何も窺い知ることはできなかった。
ただし、奴が纏っていた雰囲気こそが何もかもを表現していた。それも、黒という色の、負の側面のみを取り出して強調したようなもの。
巨人は石碑の前にたどり着いた。
そして、その足を止めた。
どうやら奴の見ていたものはこの石碑だったらしい。
暫くの間の、静止。
破裂しそうな程に激しく鼓動する『俺』達の心臓を除いて、あらゆるものの時間が完全に止まっていた。
再び動き出したのは、石碑から漏れ出る妖気が一層強くなった時のこと。
巨人はその巨大な拳を振り上げ、咆哮すると共に勢いを以て振り下ろす。
実に単純で簡潔な動作だった。その対象は石碑。
拳が石碑にぶつかる。石碑には大きなヒビが生じる。
その瞬間だった。
石碑からはどす黒い"何か"が溢れ出す。先程の妖気とは全くに性質を異にするものだった。
それは最初、巨人の咆哮に感じたものと同質のもの。
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