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溢れ出した"何か"は巨人へと吸い込まれていく。
絶え間なく吸収し続ける奴の体は、どんどん膨張していた。
一通り吸収し終えた巨人は、拳を腰の位置に構えてまたもや静止。
そして、雄叫ぶ。
今回は予備動作が見えたため、事前に耳を塞いだ。が、結果としては無駄だったかもしれない。
空気が、孤児院が、大地が、否、世界が震撼した。
俺達には物理的、精神的作用をも残す。
予想外の声の強さ、それは巨大な波となって辺り一帯を荒れ散らかしたが、巻き込まれたのは『俺』達とて例外ではない。
まだ幼く、体つきの小さい『俺』とクルトは吹き飛ばされ、別の建物に激突。
ネリーさんはなんとか踏み留まってはいるようだが、飛び交う粉砕物などに顔を歪めている。
クルトの顔は激突の際に、顔面を大きく裂いてしまった。流れ出る血が痛々しい。
しかしながら彼は気丈に振る舞い、震え、止めどなく涙を流す『俺』の頭を撫で、そっと抱きしめる。
その思いやりは、今ばかりは純粋に嬉しかった。触れた暖かさが、少しだけ気持ちを和らげる。
『俺』達は揃って巨人を見る。
奴は全身からうねるような、黒く禍々しい瘴気を迸らせている。雰囲気はただの"印象"では無く、"実際に見えるもの"となっていた。
奴は何処を見る訳でも無く、ひたすら虚空を見つめている。
そして、消えた。
あまりにも唐突すぎた終幕。
そこに残されたのは、見るも無惨に破壊された孤児院の建物の数々、恐怖に怯える『俺』、しっかりと『俺』の手を握るクルト、深く考え込んでいたネリーさんだけであった。
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