十九章(夢追人)

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 目を覚ますと、まだ少しばかりの闇が残っていた。  もう一度寝ようかどうか少し迷ったが、結局シンは二度寝を諦めた。 (さて、これからどうするか)  ルイがエルネスト一行に加わったことで、シンは厄介な荷物を一つ降ろした気分になっている。このまま一人でここを立ち去っても文句を言う者は誰もいない。だが、そうするには少々惜しい気もしている。アガルテの秘宝とは一体どのようなものか? エルネストは秘宝を手にして一体何をするつもりなのか? ルイは曽祖父ナロックの旅立った幻の国に果たしてたどり着けるのか? カルのことも気になるし、あの恐ろしい老人のことも気になる。  シンは下生えの中から上半身を起した。  近くのものははっきりとその目で見ることができるが、十メートルほど先の潅木の茂みにはまだ夜のなごりのような闇が佇んでいる。完全に明るくなるまでにはもう半刻ほど時間がかかりそうであった。  掌が露で濡れている。震えるほど寒いわけではないが火が欲しい。昨夜の焚き火は完全に消えており、もはや僅かな熱量も持っていないようであった。 「何やら気持ちの良い朝だなぁ」  隣で上体を起したエルネストが伸びをしながら呟いた。  シンが右を向くと、エルネストと視線がぶつかった。  この男にとって気持ちの良くない朝とはどんな朝だろう? シンにはそれがどうも上手く想像できない。  エルネストの横ではファリスという女が例の少女を片手で庇うようにしながら軽い寝息を立てていた。カル、コルテス、それと三人の騎士達もまだ思い思いの場所で眠りについている。  レックスと呼ばれる巨人戦士とヤン・スーと名乗った怖い老人の姿は見えない。 「少し歩いてくる。一緒にどうだ?」  エルネストはそう言うとゆっくり立ち上がった。  「良いだろう」  エルネストの誘いにシンは快く応じた。  このエルネストという男がアガルテの秘宝を手に入れてどうするのか? それを聞いてみたい。いや、秘宝より何よりこの男自体に興味がある。  二人で潅木の林を東の方向に歩いていくと、遠くで水の音が聞こえてきた。 「河まで歩いてみるか」  シンの了解を得る前にもうエルネストの足はブラティスの方向へと向いていた。
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