燻ぶる。

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「初めてだな…」 「ん?」 「煙草、吸うのか。」 「…あぁ」 何回かここを訪れてはいるが、煙草を吸っている姿など記憶にはなかった。 一瞬怪訝な顔をされたが、彼の手の中で大分短くなってしまったソレを指摘するといつもの嘲笑を返された。 「実験中は吸わんからな。気分転換だ」 そう言って灰皿に押し付け、また新しいものを一本取り出す。 「煮詰まってでもいるのか?」 「…。」 こちらが皮肉に問いただせば、不機嫌なのを隠しもしないで一瞥をし返事の変わりに煙をふかす。 開かれた窓から冬の凍てついた空気と彼の指先から香るメンソールが交じり合い妙な高揚感を覚える。
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