燻ぶる。

7/9
前へ
/64ページ
次へ
「一本、くれないか?」 「おや、意外だな。君も吸うのか?」 「いや…普段は、吸わない。」 彼の手元から一つ抜き去り、くわえるとライターを差し出してきた。 目の前で着火、珍しいこともある…こうやって訪れた際、お茶もろくに出さない彼が。 煙るそれを肺に深く吸い込み、ゆっくりと吐き出す。 「美味いかね?」 先ほどまで機嫌の悪そうだった彼が、少し楽しんでいるように見えた。 まったくもって珍しい。 しかし、煙草というものは…何が嗜好品だ。 大して美味くもなく、ただ体に悪いものをよく好んで摂取しようとする。 ヘビースモーカーの気が知れない。 もう一度深く吸い込み、煙とともに微笑んで見せた。
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加