真夏の白昼夢

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 不意に時刻が知りたくなり、そっと目を開けた。  湿度の高い夏の空気はよどみを作り、視界は不安定だった。ゆらりと、熱された空気が陽炎のように揺らめく。  その向こうに、時計が見えた。  わたしはその時計が、あまり好きではなかった。  時計は祖母が嫁入りの時分に持ってきたもので、どっしりとした重厚な造形の置き時計だ。針も文字盤も、時間の流れを無視するように、製造から何十年も経過した今でさえ、光を受けると月光に照らされた水面さながらにきらめくのだ。  飾り猫の瞳が、こちらをじっと見つめていた。碧緑色の色硝子に刻まれた黒い半月は、わたしを容赦なく凝視する。幼い頃のわたしはそれがとても恐ろしく、真夜中に目覚めてはよく泣いた。  両親はそんなわたしを、疳の強い子だと云っていた。  それ――わたしが嫌いなもの――を持ってきた祖母も、三年前に他界した。別に、祖母が嫌いだったわけではない。むしろわたしは、祖母っ子の部類に入るほうだったろう。  それでも、わたしはその時計がどうしても好きになれなかった。  時計は昼前を指していた。  わたしは再度、目を閉じた。  むせ返るような熱い空気に呑まれるようにして。深い眠りをむさぼるべく。  羊水の海にまどろむ胎児のように、丸くなって。   ‡ ‡ ‡ ‡ ‡
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