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「さぁ、今日からここがお前の家だ」
叔父さんに言われるがままに車に乗せられ、着いたのは巨大な建物の前だった。
あぁ、ここが噂に聞くあの施設か。
そうぼんやりと考えていると、ハッと気付いた。
――今、叔父さんは何と言った?
「いいかい、ちゃぁんといい子にしておくんだよ」
叔母さんが神経質そうに僕に言った。
「どういう事?」
そう聞くと、叔母さんはキッと睨みつけるようにこちらを見て、唾を飛ばしながら
「本当に物分かりの悪い子供だね! 今この人が言った通り、お前は今日からここで暮らすんだよ!」
叔母さんの怒り方はいつもこうだ。一旦人を馬鹿にして、けなしてから怒る。
僕にだけかもしれないけど。
僕はあの戦争でお父さんとお母さんを失った。
僕はまだ小さかったから、あまり顔は覚えていない。
ただ、叔父さんから聞いた話によると、二人とも僕を庇って死んだらしい。
叔父さんと叔母さんは、僕の唯一の身寄りだ。
戦争の最中救助された僕を10年間、育ててくれた。
正直、迷惑だったと思う。生活する上で不遇な目に遭わされたり、虐待を受けた事もしばしあった。
辛く、苦しい毎日だった。
しかし今、この建物の前にこうして立っているということは、その生活にも終止符が打たれる事を意味していた。
内心、小躍りしたいほどに嬉しかった。
これからはどんな生活が待っているのか、ウキウキしながら僕は二人と一緒に、建物の中へと入って行った。
受け付けで、優しげなお姉さんがこれから僕は入所テストなるものを受ける事を知らされた。
二人は心配そうな顔をしていたが、成績次第では入所させないというものではなく、ただクラス分けの為のテストだと説明され、ほっとした表情が浮かんだ。
「では、ここから先は二名様はお引き取り下さい。」
叔父さんと叔母さんは、
「しっかりと勉強しろよ」
「帰ってくる頃には一人立ち出来るようにね」
そんな別れの挨拶とも言えないようなことを言った。
僕は、2年間もこの二人の顔を見なくて済むのだと思うと、せいせいした気持ちになると同時に、なんだか寂しいような思いがした。
「さぁ、花鳥(はなどり)風月(かづき)君。行きましょう」
係の人に連れられて、僕は建物のさらに奥に進んでいった。
―――それが、凍てついた線路へ続く道だとも知らないで。
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