プロローグ1:平坂彩音

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 学生の月曜日というのは、得てして憂鬱なものである。気楽に生きてようが苦労して生きてようが、月曜日の朝に漏れる息はため息だと俺は信じている。  などと偉そうに語る俺も、正直憂鬱だった。朝からため息ばかり吐いている。  面倒くさい。  俺が生きている中で、1番たくさん出てくる言葉。  学校の始業式など、面倒以外の何者でもない。  しかしそれでも、行かないといけないものはいけない。もう1つだけため息をついて、この話題から離れることにした。  着ている服を適当に投げ、部屋の隅に置いている小さなクローゼットから学生服を引っ張り出し、袖を通す。  電気をつけ、俺は外に出ようとして――ふと思い返し、今度は服をきちんと畳んだ。  そして、自分のやってることが笑えてくる。面倒くさがりなのかそうじゃないのか、これではよく分からない。  まあ、どちらでもいいか――  部屋が綺麗になったところで、俺は玄関となるドアを開け、右を――102号室と、103号室のある方を向く。  その視線の先、人1人が寝転ぶこともできそうにないスペースでは、いつものように、小柄な女の子がラジオ体操をしていた。 「……毎日飽きずにやってるんだな、彩音。律儀なこった」 「あ、真一お兄ちゃん。おはよ~」  少女は俺の姿を見るなり、体操を中断し、てててー、と駆け寄ってきた。  少女の名前は平坂彩音(ひらさか・あやね)。102号室に住んでいる、中学2年生の少女である。  背丈は俺の首下辺りまでしかなく、身長は30cm近く離れているらしい。ふっくらとした顔に、いつも潤いを帯びている丸っこい瞳がキュートだそうだ(by103号室の住人)。  髪は短く左右にくくっており、跳ねたり走ったりするたびに揺れている。ラジオ体操の時に邪魔になるんじゃないかと聞いたら、そんなことはないって言われた。 「ああ、おはよう」 「真一お兄ちゃんも一緒にやらない? 体操」 「面倒だ」  俺は彼女にお兄ちゃんと呼ばれているが、俺の妹ではない。  かといってもちろん、そう呼ばせるような特殊性癖が俺にある訳でもない。ただ彩音が、勝手にそう呼んでいるだけなのだ。 「え~」 「頬を膨らませようが文句を言おうが絶対やらん。その辺の体育バカでも誘え」 「体操、楽しいのに……」
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