プロローグ1:平坂彩音

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 なぜ中学2年生の少女が1人暮らしを? と思われるかもしれないが、これにはある事情がある。詳しくは面倒だが、一言で説明するなら「家出」だ。  ちゃんと家賃などは親づてでもらっているので、これといった問題は無い。  その彩音は、少し乱れた着衣を直しつつ、俺の方を向いて言った。 「今日は始業式だよね、真一お兄ちゃん。また今日から学校かあ」 「の割には元気そうだな、彩音。友達と会うのが楽しみか?」 「うんっ!」  屈託のない、満面の笑顔で頷く彩音。  これくらいテンションが高いなら、今日も世界は平和なのだろう。俺は何のリアクションも返さず自室へと引っ込んだ。  その後ろを、彩音がついてこようとするが、 「外出てろ。飯できたら呼んでやるから」 「え~」  しっしと手で追い払うポーズを取る。彩音は不満そうな声を上げながらも、割とすぐに部屋に引っ込んでくれた。  俺が今からやることは、朝飯作りだ。  よく手伝おうとするのだが、彩音は料理ができない。目下勉強中らしいが、1週間前に「勉強の成果」とやらを試され、トイレの住人になった記憶はまだ脳裏にこびりついている。  まさか中学2年生の少女をコンビニ弁当漬けにする訳にもいかず、したがって彼女の朝食と夕食は、俺と103号室の住人がやっている。 103号室の住人については……また後で説明するとしよう。それよりは今は、朝飯だ。
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