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やんわりと相手に指摘され、恥ずかしさに顔が熱くなる。
組内の面々は沖田、土方とかなり整った顔立ちをしている者が揃っている。
そんなことを考えていれば、それは相手の顔をじっと見つめるなんて行動に繋がってしまって。
無意識に彼らと隣の、それも初対面の人物を比べてしまうなんて、失礼極まりない。
恥ずかしさに声も出せず、顔を真っ赤に染めてうつ向くしか、腰を下ろしてしまった今は逃げる方法を思いつかない。
「ごめん。たまたま土手を歩いてたら、此処を見つけてさ。少し時間を潰そうと思ったんだけど……。ところでキミ、名前は?」
そんな和泉の様子を一頻り笑い、彼は初めに一言謝ると、目を細め自然に話題を移す。
話題が変わったことでやっと出来た余裕に、ほっと息を吐くと躊躇いがちにひと呼吸をおいて名前を告げる。
「……瀬戸、和泉」
「へー……。俺は吉田栄太郎。和泉、女の子なのに何で袴着てるの?」
やっぱり名前を聞くと、吉田は一瞬驚いたように目を見張る。
何度経験しても、その反応はあまり気持ちの良いものではない。
そんな反応の原因は、やはり新撰組一番隊組長補佐としての名が、京の広範囲に広まっているせいだ。
もう慣れた反応を受け流した後に、吉田の言葉から組の掟を守るべくしている男装が、たったの数分で見破られた事にひやりとする。
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