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本来ならば隠さなければならないというのに、黙り込んでいては肯定していると明らかな反応をする和泉に吉田は苦笑いをする。
だけど、ここでまた指摘してしまえば先程の繰り返しだろうと、吉田はあえて黙っておいた。
「まあ色々物騒ですからね。でも逃げないんですね、吉田さんは。……私、有名なはずですけど」
名前を聞いただけで、あの驚きようなら、もう分かっているだろうに。
私が新撰組だって気づいてますよね?と和泉が付け加えて問えば、すっと不満げに吉田の眉が上がる。
大抵名を言えば、関わりたくないとでも言いたげに眉を寄せて、足早に去っていくのが殆どだ。
しかし吉田は逃げるどころか、まるで面白いものでも見つけたかのように和泉に話しかけてくる。
「あれ?逃げた方が良い?今は隊服着てないし、仕事じゃ無いんでしょ。……それにさー、名前教えたんだから栄太郎って呼んでくれない?」
「確かに今は仕事じゃないですけど」
こんな人、初めて出会った。
不審なモノを見るかの様に吉田を見ている和泉にニコニコと彼は笑うだけ。
これは沖田と並ぶくらい、変人かもしれない。
「そんな不思議そうにしないでよ」
「人殺しって罵倒される事だって少なからずあったから。不思議なんですよ……逃げない貴方が」
敵意の見られない吉田に、自然と胸の内にあった感情を吐き出す。
「まあ、間違いないですけど」
悲しそうな顔をしながら、自らを嘲笑する和泉の頭を慰めるように吉田はそっと撫でる。
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