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新撰組が以前、壬生浪士組と呼ばれていた頃から、和泉は共に時間を過ごしてきた大切な仲間。
土方は少なくとも和泉の事をそう思っている。
だから和泉が女だとしても今さら関係は無いし、ましてや男だ女だと特別扱いをするつもりも無い。
土方は副長であるというのに、全くもって上司を敬う思考を欠片も持たない手の掛かる弟分に、伝言を頼まれたのはつい先程。
面倒くさいと思いながらも律儀に伝えに行くのは本人の性格ゆえか。
「総司が新しく出来た甘味屋に着いてきて欲しいんだとさ。ったくよ……毎日甘い物食って飽きねぇのか?」
屯所の門を親指で指し示しながら、呆れに似た表情を浮かべる土方を背中に、和泉は立ち上がる。
「総司にとっては甘味は生きる糧らしいよ。まあ私は食事と寝床があったら十分生きていけると思うんだけど」
女らしからぬ事を言う和泉らしい返事に土方は思わず苦笑する。
緩んだ着流しの帯を締め直し、和泉は傍らに置いていた大小の刀を腰に差すと、土方に短く礼を言って背を向けた。
「遅くならねぇ内に帰って来い。夜の巡察、出るんだろ?」
「はーい」
背中に掛かった声に軽く答えた後、振り返らないまま、いってきますの代わりに手を振った。
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