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どうでもいい会話を繰り返しながら、壬生の田舎町を抜け賑やかな町に入る。
屯所から此処まで、そんなに距離が離れているわけではない。
故に良く隊務を抜け出し、甘味を食べに町に行くサボり魔が隣に居る。
「巡察以外は何も仕事が無いですし。暇です」
腰に差している愛刀の菊一文字の柄に触れ、溜息をこぼす。
「……。それくらい平和ってことだよ。良いじゃない」
沖田らしい言葉に苦笑する和泉だが、自分だって言える立場じゃない。
泣く子も黙る新撰組、と噂されるほど、今では剣客集団の集まりだ。
浅葱色の羽織を着て町を歩けば陰口は勿論、あからさまに避けられる。
浪士と斬り合いにでもなれば、和泉だって自分の命を守るために刀を抜き敵を斬り捨てる。
もう数えるのも億劫なほど、この手で人を殺めてきた。
ひらり、と手のひらを目の前にかざした和泉の思考を遮るように、隣を歩く沖田が立ち止まり興奮したように叫んだ。
「ここですよ!!」
こうして話しているうちに一軒の甘味屋に到着。
店の入口にかかる赤色の暖簾を潜る前から、既に嬉しさを滲ませる沖田に和泉は小さな笑いを溢す。
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