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ぐっと言葉を詰まらせた沖田は上目遣いで和泉に視線を向けながらバレましたか、と頭を掻く。
束の間、ガッタンなんて派手に椅子を鳴らして立ち上がるものだから再び周りの視線を集める。
「あっ!子供たちと壬生寺で遊ぶ約束をこの前していたんですっ。お金、代わりに払っておいてください!」
すっかり約束を忘れていたのか、沖田は和泉にお金を握らせ、慌ただしく店を後にする。
何も刺さっていない団子の串を歯で挟み、和泉は沖田の後ろ姿を見送った。
手のひらに乗ったなけなしの金に思わず文句が漏れる。
「全然足りないって」
足りない分を和泉が払い勘定を済ませ店を出たが、巡察にも屯所に帰るにも中途半端な時間で、まだ夕方まで時間が余る。
「鴨川にでも行こっか……」
ゆっくりとした足取りで、久々に真っ直ぐ進んだ場所に流れる鴨川を目指した。
程無くして到着したその場所には一人の先客が居た。
そこは日当たりも良く、自分だけのお気に入りの場所だった。
しかも高い草に囲まれていて、普通は気付かない。
誰も来ないと思っていた場所に座る先客にどうしようか、と土手を降りる足を止めた。
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