act.4

5/7

285人が本棚に入れています
本棚に追加
/72ページ
 ***** 「──明」 「ゆう、と……」  どうせアイツは一緒に帰ってくれないんだろうな、なんて思いながら同じ班の横谷と掃除をして、ついでに一緒に帰ろうとしていた矢先のことだった。  下駄箱で靴を履き替えているところに声を掛けられて、顔を上げる前にそんな掠れて震える声を出していた。 「……一緒に、帰っていい?」 「ぁ……」  思い詰めたような表情と声とに、言葉が喉の奥に引っかかって出なくなってしまう。  オロオロと片足だけ履き替えた靴とアイツを交互に見ていれば、ぽん、と優しく肩を叩かれて顔を上げた。 「ヒロ……?」 「一緒に帰り」 「……ヒロ……」  縋るような声だと、自分で思ってから。  苦笑しながら首を横に振った横谷をじっと見つめる。 「そんな顔せんと。……嫌やろ、明くん。今のままは」 「…………ヒロ……」 「藤崎待っとるよ。はよ靴履き替えんと」  優しい声に促されて、のろのろと靴を履き替える。 「……健、もう帰ってもた?」 「…………いや……」 「そしたらオレ、健と帰るから」 「ヒロ……」  ひらひらと手を振って、来た道を歩いていってしまう背中を呆然と見つめる。 「…………明……」 「っ……」 「……帰ろ」 「…………うん」  いつも通りとはほど遠い。それでも昨日とは違う穏やかで優しい声に、ようやく頷いて、ぱたぱたと駆け寄って 「…………ゆうと……」 「ん?」 「…………結人」 「うん」 「……」 「……明」  何も言えずに黙り込めば、そっと名前を呼ばれて顔を上げた。
/72ページ

最初のコメントを投稿しよう!

285人が本棚に入れています
本棚に追加