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「──明」
「ゆう、と……」
どうせアイツは一緒に帰ってくれないんだろうな、なんて思いながら同じ班の横谷と掃除をして、ついでに一緒に帰ろうとしていた矢先のことだった。
下駄箱で靴を履き替えているところに声を掛けられて、顔を上げる前にそんな掠れて震える声を出していた。
「……一緒に、帰っていい?」
「ぁ……」
思い詰めたような表情と声とに、言葉が喉の奥に引っかかって出なくなってしまう。
オロオロと片足だけ履き替えた靴とアイツを交互に見ていれば、ぽん、と優しく肩を叩かれて顔を上げた。
「ヒロ……?」
「一緒に帰り」
「……ヒロ……」
縋るような声だと、自分で思ってから。
苦笑しながら首を横に振った横谷をじっと見つめる。
「そんな顔せんと。……嫌やろ、明くん。今のままは」
「…………ヒロ……」
「藤崎待っとるよ。はよ靴履き替えんと」
優しい声に促されて、のろのろと靴を履き替える。
「……健、もう帰ってもた?」
「…………いや……」
「そしたらオレ、健と帰るから」
「ヒロ……」
ひらひらと手を振って、来た道を歩いていってしまう背中を呆然と見つめる。
「…………明……」
「っ……」
「……帰ろ」
「…………うん」
いつも通りとはほど遠い。それでも昨日とは違う穏やかで優しい声に、ようやく頷いて、ぱたぱたと駆け寄って
「…………ゆうと……」
「ん?」
「…………結人」
「うん」
「……」
「……明」
何も言えずに黙り込めば、そっと名前を呼ばれて顔を上げた。
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