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「……一個だけ、聞いていい?」
「何?」
優しくて穏やかで、それでも少しだけ強ばった声に、キョトンと返す。
「……嫌じゃなかったって…………オレが、……その……キス、したの……嫌じゃなかったって……本当?」
恐る恐る放たれた声に、意味が分からずこっくり頷いた。
「ビックリはしたけど……嫌じゃなかった」
「……明」
嬉しそうな声。
「何だよ?」
「オレのこと好き?」
「……だからぁ……もう、そんなんどーでもいーじゃん。……オレらさ……そんなん要らないくらい近いでしょ」
「…………あきら……」
「……好き、とか……当たり前じゃん」
「……明……」
結人の顔中に広がっていく喜びに、照れくさくなってそっぽ向いた。
「……突然キスとか、は……もうヤメて欲しいけど……。……でも、…………一緒にいられないのはもっとヤダ」
「明……」
「……1人、は……やっぱり淋しいよ」
「──明」
ぎゅぅ~っ、と抱きつかれて、驚きながらも。
その肩が震えていることに気付いて、苦笑しながら頭をポンポンと叩くように撫でてやる。その仕草は昔、よく結人がしてくれていたのだと気付いてから苦笑を深くした。
「バカゆーと。……もうオレのこと泣き虫って言うなよな」
「っ……あきら……」
聞こえてきた涙声に小さく笑ってから、
「…………ずっと傍にいたいから、そういう好きは要らない」
もう一度キッパリ呟いて、揺れた肩にそっと触れる。
「──ゴメン」
「明……」
「……でも、ヤじゃないよ、結人。キスも……こーやって、ひっついてるのも」
「……明」
「…………このままでいよ? わざわざ、そういう好きに、なる必要ない」
泣き濡れた瞳を見つめながら呟いてから、一番言いたかった一個を笑って付け足した。
「……結人の好きは……ちゃんと受け取っとくから」
その先に進むのが恐かったのは事実。
今の関係を壊したくなかったのも事実。
だけど。
甘えてたのが一番の理由。
だって、そんなことになると思ってなかったから。
いつまでも、“これから先”を二人で歩いていけると。
バカみたいに信じて、当然だと思ってたんだ。
責めて良いよ。
怒って良いよ。
オレのこと、嗤って良いよ。
だけど。
これってお前のせいでもあるんじゃない? なんて。
思うのは卑怯かな?
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