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「……荷造りは進んでる?」
「一応」
「…………本当に、お隣りに知らせなくて良いの?」
「…………うん」
心配そうな声に、静かにキッパリと頷けば、そう、と溜息混じりに呟いた母親が、そっと口を開いた。
「……ホントに……ごめんね?」
「……いーよ。…………それより。夏休みの終わりに……明と旅行行くから」
「ぇ……?」
「……出発までには戻るから」
「でも……」
「……このくらいの我が侭は、聞いてよ……」
「……」
「……ゴメン」
すまなそうな顔で口を噤む母親に小さく呟いて立ち上がる。
「…………お金は……」
「……何?」
「足りるの?」
「……平気」
「そう……」
ありがと、と笑い返してから自分の部屋へ。
明が突然来ても大丈夫なように、まとめた荷物は押入に入れてある。パッと見では、荷造りをしているとはバレないだろう。
どさり、とベットに倒れ込んで、枕に顔を埋める。
明に対しての後ろめたさは確かにあるけれど、残り少なくなってきた日にちを、2人で指折り数えて気まずくなるなんて、淋しいことはしたくなくて。
どうしても最後まで、いつもと同じように笑う明を見ていたくて。
自分の我が侭に小さく嗤ってから唇を噛んだ。
「…………あきら……」
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